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「渋沢栄一氏と北区」ゲーム企画の公募から始まり、採択、そして本日、完成品を目の当たりにした。「ものを作った」という実感は、何物にも代え難い喜びを与えてくれる。じんわりと腹の底が熱くなる、安堵にも似た感覚だ。依頼を受けて、それに応じる。いち同人ゲームデザイナーとして、制作に携わることができ、貴重な経験となった。そんなわけで、今回のコラムでは「渋沢栄一氏と北区」ゲーム企画の制作を通じて感じたことを書き残してゆきたいと思う。

萬印堂は、私が初めて作ったカードゲームの印刷でお世話になった会社で、私にDTPのイロハを教えてくれた、ある意味で先生のような存在だ。入稿データの作り方や、CMYKとRGBの違い、解像度とは何か、など色々と教えてくれた。

いくつかゲームを世に出すようになり、身についた習慣として「萬印堂の早割をチェックする」というものがある。スケジュールを組み立てる際の、ひとつの目安になるのだ。

そんな風に萬印堂のウェブサイトを見ていた折、ふと目にとまったのが「渋沢栄一氏と北区」ゲーム企画だった。第一印象は「渋いな」この一言に尽きる。渋沢栄一氏にしても、北区にしても、詳しいことは何も知らなかった。「むかしの偉人と何があるのかよく分らない区」に関するゲーム制作企画、というのが有り体な感想だった。

その程度の認識なので、ダメ元で応募してみよう、と軽い気持ちで提案書を作り始めた。ただ、それでも最低限の知識は得ておこうということで「論語と算盤」は読んでみた。読んでみて分ったのだが、これがまた渋い。内容は理解できても、それをゲームにするとなると、生半可な知識はかえって悪影響になるだろう、と判断した。というわけで発想の転換。提案書には、思い切って北区をフューチャーする内容を盛り込んでみたのだった。

私の持つアドバンテージは東京都民であること。北区へなら片道一時間で行ける。この点を最大限に活用しながら、「北区には何があるのか?」に対する答えを作品に求める旨を書き記し、提案書とした。

システムは以前から温めていたもの。ダメならダメで別の機会に世に出そうと思っていた矢先、採用の通知が届いた。8月13日のことだった。納期まで4ヶ月。

私は絵が描けないので、イラストレーターを起用するところから始めた。白羽の矢を立てたのは久遠堂さん。ご自身もゲームを作られており、アートワークの雰囲気もよく見知っていたので、お願いすることに。

カードやボードのラフを久遠堂さんに回した後、説明書作りに取りかかる。ゼロからゲームを作り上げるのに4ヶ月は短いと思っており、前述の通りシステムに関してはある程度形になっているものをそのまま流用した。ルールを作ってアートを乗せるというよりも、アートに合わせてルールを変える、といった作り方だった。

なので今回の企画を通じて、所謂(ゼロからイチを生み出す)ゲームデザイナーとしての本領を発揮した部分は実はそれほど多くなくて、それよりも何よりも一貫して心を砕いたのはズバリ「調整」だった。

ひととひとの間に立って双方が納得するように整える。4ヶ月間、私は調整の鬼だった。これに関して一役買ったのがサラリーマンの職務経験だった。営業事務という職種で長年働いており、その経験が制作の場で生きたのは自分自身でも意外だった。はっきり言って地味なスキルだけど、今回の企画で一番役に立ったスキルだと自認している。

(ゲームデザイナーとして作品を作るのも良いけど、いつか大きな企画に携わることがあったら「調整マン」として参加してみるのも悪くないかな、と思ってみたりする)

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紆余曲折あった後、入校。これが企業案件かと、ほっと胸をなで下ろす。恐らく、ボードゲームデザイナーには2種類の人間が存在する。他人の作りたいボドゲが作れるデザイナーと、作れないデザイナー。私も最初は後者側だったが、今回の企画で否応なしに前者側となった。前者と後者で、同じボードゲームでもこうも作り方が違うものかと痛感した次第。

ゲームはサイコロの代わりにカードを使った双六ということで、カードには渋沢栄一氏を、ボードには北区の地図と名所を配した。ゲームの目的は、なるべく多くの名所をめぐりながらゴールを目指すというもの。

初めて人生ゲーム以外のボードゲームを触れるひとを意識して、カードをめくる、カードを出す、駒を動かす、チップを置く、といった「ボードゲームを遊んでる感」が味わえるようなゲームを目指した。

北区は(目黒川や上野公園、千鳥ヶ淵と比べるとややマイナーだが)古くから桜の名所として知られ、桜のモチーフを全体にあしらった。このあたりは久遠堂さんがいい仕事してくれたと思う。北区を調べてみると、ユニークな名所が沢山あり、絞るのが大変だったのだけれど、ゲームを通じてそんな名所の数々に興味を持って欲しいという願いを込めて、サブタイトルは「行きたく(北区)なる双六」に決まった。

今回は北区とNHK大河ドラマがタイアップして、そのお土産品として「ボードゲーム」が作られた訳だけど、これをひとつの事例として「ボードゲーム」を作る自治体や企業が増えていったら良いな、と思う。ボードゲーム目当てにその場所を訪れるひともいるだろうし、同人でやってるゲームデザイナーにとっても夢のある話だと思うので。

最後に、本作「渋沢栄一とゆく、北区巡り。」は青天を衝け大河ドラマ館のオープンに合わせて2月20日から販売開始。また、ゲームマーケット2020春・萬印堂さんのブースでも販売されます!