TAVERN・QUEST
待人亭物語

第2話

 夜が深まるにつれて、店も混み始めた。ハティはカウンターの端で薬草茶を飲んでいた。仕事の手伝いをさせて欲しいと声を掛けても、なかなかうまくゆかなかった。冒険者は相手が格下と判るなり、途端に態度を変えた。悪いがこっちは忙しいんだ。他を当たってくれ。そんな返事ばかりで、ハティの気持ちはすっかり沈んでいた。
 カウンターではクロクマが冒険者に対して、報酬の支払をしていた。ギルドから発行された書類にサインをすると、まずは金銭による報酬--すなわちコルナ硬貨が支払われる。次にその仕事を経て積んだ経験値の清算が行われる。冒険者は自らのライセンス証を取りだし、カウンターに設置された石版のくぼみに、それをはめ込んだ。石版に手を当てると回路が赤く走り、くぼみにはめ込まれたライセンス証と繋がる。ライセンス証の数字が目まぐるしい勢いで増えてゆき、やがて止る。その仕事を通じて獲得した経験値が、ライセンス証に充填されたのだった。経験値を一定の値まで充填させると、冒険者のレベルが上がる仕組みとなっていた。

 ハティは試しにライセンス証を石版に嵌め、縁にそっと手を当ててみた。石版はぴくりとも動かない。壊れているのではないかと思うほどに。まだ経験値らしい経験値を積んでいないのだ。肩を落とし、もう今日は宿へ戻ろう、そう思った矢先--ふと背中から声が掛かった。
「ねぇ、君。さっきから見ていたけど見習い冒険者なの?」
 振り返ると、ピンク色の髪をした道化師風の衣装に身を包んだ少女がいた。くりくりした目を興味深そうに差し向けている。
「は、はい。あなたも冒険者ですか?」
「そうだよ。ぼくは道化師のキャスパー。はじめまして……えーっと」
「僕はハティ」
 キャスパーの差し出した手にハティは応じた。
「よろしく! ハティ」
 聞くところによるとキャスパーは世界を旅しながら、広場や酒場、邸宅に招かれるなどして大道芸を披露しているのだという。冒険者にはいくつかのクラスがあり、そのクラスのひとつに道化師があった。人々が娯楽を求める限り、道化師の仕事はなくならない。道化師は旅芸人の一座に組みしたり、旅商人の一団に付き従ったり、はたまた貴族に召し仕えるなどして、人々に娯楽を届けていた。
「まだ、ひとりでは仕事を請け負えなくて」
 ハティは困ったように笑い、わざとらしく頭を搔いてみた。
「それなら、ひとり紹介できる冒険者がいるよ」
「本当ですか!」
「うん。旅の途中で出会って、一緒にこの街に着いたんだ。そこの彼なんだけど……」
 キャスパーの視線の先に長身の男がいた。柱を背にひとり静かに佇んでいる。灰色の髪に浅黒い肌、しなやかな筋肉に包まれた体躯。身に付けている服から、どうやらシャサラの民のようだった。
「……!」
 どうやらこちらの視線に気付いたらしい。キャスパーが手を振ると、怪訝そうに頷いた。
「さぁ、こっち」
 キャスパーに手を引かれ、ハティはシャサラの男の元へとやって来た。
「ジーン、こちらはハティ。仕事の手伝いをしたいんだって」
「ハティと申します。宜しくお願いします!」
 ハティが礼儀正しくお辞儀をすると、ジーンは軽くため息をついて、腕を組んだ。
「そんなにかしこまるな。そういう礼儀作法って奴が俺は一番苦手なんだ」
「そりゃないよ。そんな、ぶっきらぼうな言い草!」
 ふくれっ面をするキャスパー。対するジーンは困ったように頭を掻いた。
「やれやれ、判ったよ。俺はあくまで実力で判断させてもらう。新人もベテランも関係ない。それでも話を聞きたいか?」
「はい! お願いします」
 ハティは一も二もなく、そう答えた。

 ジーンのクラスは盗賊。盗賊といっても盗みを働くのが仕事というわけではない。ギルドのいうところの盗賊とはトレジャーハンターをさした。この世界には未だ解明されていない謎が多く眠っている。ジャングル、砂漠、山岳、海。未開の地に眠る宝を探し求めるのが盗賊の仕事だった。
「それじゃ、がんばってね。ハティ」
 キャスパーは旅の途中で仕入れた冒険譚を披露すべく、ステージへと向かった。
「閉鎖された坑道に、あるはずのない道が生じた。その調査が今回の仕事だ」
 ジーンはテーブルについて、地図を広げた。王都からほど近い場所にある炭鉱の町を指した。
「あるはずのない道……?」
 ハティは首を傾げた。
「不思議に思うのも無理もない話だ。だが、近年そのような事件が増えていると聞く。坑道を掘り進めていたら、古代遺跡を掘り当ててしまったかのようにな」
「では、実際にそうなのですか?」
「いや、その可能性は低い。依頼人の話によると、今まで何年も地下を掘っていながら、そんなことは一度もなかったという。それに、本来なら産出するはずのない石が見つかっている。どう考えても異常事態だ」
 ジーンは腰の布袋から石のかけらを取り出した。何の変哲もない石の断面に、赤くキラキラと輝く細礫が混じっている。
「これは……」
「魔石だ。俺たちが日々恩恵を受けている魔法の源さ。王宮が管理している特別な場所でないと、採ることのできないシロモノだ」
 ギルド発行のライセンス証に用いられる技術--魔法。その技術は太古の昔に失われた古代文明のものと云われている。
「その魔石がどうして、一介の炭鉱から……」
「その謎を調べるのが今回の仕事だ。仕事の依頼主は町の組合。提示された報酬額はこの程度だ。最初にいっておくが、この仕事は危険が伴う。落盤や滑落で命を落とす可能性がある」
 ジーンはギルド発行の依頼書を開いた。ハティに報酬の相場は判らなかったが、十分魅力的に思えた。さらに、冒険者に求められるレベルは三以上で、調査のスキルが必須であると記されていた。
「大丈夫です。覚悟はできています」
「よし。では報酬は俺が八で、お前が二。やってもらうのは命綱を張る作業だ。できるか」
 ハティは身を乗り出して、大きく頷いた。
「できます。やらせて下さい」
 ジーンは微かに笑い、手を差し出した。ハティはその手に応じ、握手を交わした。
 念願の初仕事に辿り着いた。これから冒険が始まると思うと、ハティは胸が熱くなるのを感じた。


名前:ジーン・シャヒム
出身:シャサラ
クラス:盗賊(ローグ)
盗賊 修
スキル
身体:[基礎][体術][武術][水泳][登攀][演舞][詠唱]
魔法:[神聖][古代][現代][禁呪]
知識:[道具][教養][生物][科学][魔法][言語][社会][伝承][遊び]
技術:[治療][創造][調査][応援][指揮][会話][器用][心理][生存]

STR:▇▇▢▢▢▢▢
VIT:▇▇▇▢▢▢▢
DEX:▇▇▇▇▇▇▇
AGI:▇▇▇▇▇▢▢
INT:▇▇▇▢▢▢▢
LUK:▇▇▢▢▢▢▢